採用オウンドメディア成功の法則#2
[スピーカー]
サイバーエージェント 執行役員 / 採用戦略本部長 石田 裕子(いしだ ゆうこ)
会社の「リアル」を正しく伝え、泥臭くがんばれる学生にリーチできた
空前の売り手市場による採用難のなか、「採用オウンドメディア」を活用して大きな成果をあげている企業が出てきています。他社の採用メディアに頼りきるのではなく、社員のキャリアストーリーや社風が伝わるコンテンツを自社メディアで発信し、自社サイトからの直接採用やリファラル採用につなげていく新しい採用手法の登場です。そこで編集部では、採用オウンドメディアを実践し、成果をあげている企業を取材。「採用オウンドメディアの成功法則」を考えていきます。
第二回は、インターネットテレビ局の『AbemaTV』やブログサービス『Ameba』などを展開するサイバーエージェントです。2017年11月からWeb会社説明会の動画や社員インタビュー記事などをまとめて掲載する「サイブラリー」を開設。採用における企業ブランディングを刷新できたといいます。新卒採用の責任者である同社執行役員の石田さんに、成功の理由を語ってもらいました。
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※本コラムはINOUZ Timesに掲載された記事の転載です。
エントリーシートはありません
─オウンドメディアをはじめようとしたきっかけはなんでしょう。
「もっと効率的に、さまざまな人たちに当社のことを理解してもらうにはどうしたらいいか」を考えた結果です。少し前まで採用といえば、大規模な会場でたくさん学生さんを集めたり、他社さんと合同で説明会を開くのが当たり前でした。しかし地方の学生さんや海外へ留学している学生で、当社に興味をもってくれる人が増えてきました。そうなると、必ずしも会社説明会が効率的ではなくなってきたわけです。そこで、会社説明会を廃止し、オンラインで情報発信することを検討。2017年11月に立ち上げたのが、「サイブラリー」でした。
─採用のプロセスにおいて、「サイブラリー」をどのように活用しているのですか。
学生に当社をより理解してもらうツールとして使っています。当社は新入社員を毎年ビジネスコース、テクノロジーコース、デザイナーコースの3つにわけ、トータルで250名くらい採用しています。そのうち140~150名がビジネスコースで、彼らにはまずサイブラリーを見てもらい、当社への理解を深めてから選考に進んでもらう形式になっています。いわゆるエントリーシートも会社説明会もなく、1次面接に進む条件がサイブラリーを見ていただくことになっているんです。
─えっ。エントリーシートがないんですか?
ええ。当社が求めているのは代表の藤田の言葉を借りれば「素直な人財」です。変化を受け入れることができ、変化に対応できる人財、という意味です。これって、エントリーシートではほとんどわかりませんよね(笑)。それならば、オンライン上で事業説明や企業文化、どんな社員がどんな思いで働いているのかなどを伝え、当社のことを正しく理解してもらったうえで、「受けてみよう」と思った人たち全員に1次面接へ来てもらう。そのほうが企業文化にフィットした学生さんに出会える可能性が高くなると考えたのです。
地方学生の応募が2倍に
─なるほど。サイバーエージェントの採用オウンドメディアは「会社を正しく理解してもらう」ことを重視しているんですね。
はい。当社は成長企業であるがゆえ「若く、勢いがある会社」だったり、「キラキラ女子が在籍する会社」といったイメージが強く、学生さんによっては地に足のついていない、大学のサークル活動の延長上のような会社と誤解されることもありました。また、事業内容も幅広く、人によって「なにをやっている会社か」というイメージもバラバラ。「AbemaTV」などのサービスを認知していても、サイバーエージェントという社名に結びついていないことも多くあります。
しかしながら現場は、相当に地道な仕事の繰り返しです。本当はサイバーエージェントで活躍できるかもしれない人財が「サイバーエージェントみたいな派手なところではやっていけそうにないな」「サイバーエージェントは広告の会社だから」と、セルフスクリーニングして応募してくれない状況があるのではと感じていました。そうであるならば、私たちの「リアル」をちゃんと伝えて、理解してもらわなくては。そんな課題感から立ち上げたのがサイブラリーでした。
─立ち上げ後、どのような変化がありましたか。
わかりやすい変化でいえば、地方の学生さんからのエントリーが倍増しました。いままでは現地に行って地道に伝えていたのが、より効率的に情報を届けられるようになったからです。地方大学から東京に出て仕事をするケースが限定的だからこそ、採用実績ができれば「先輩がサイバーエージェントに入社したから自分も」という人が増える。認知が勝手に広まっていくわけです。
─オウンドメディア立ち上げの背景にあった、「正しい理解を深める」という部分での手ごたえはどうでしょう。
確実にあります。最終面接の段階で、「サイブラリーを見て、イメージが変わりました」「誤解してました」という人が増えました。以前なら、セルフスクリーニングをして、そもそも応募してくれなかったかもしれない人たち。これは大きな変化だと感じています。
いままでリーチできていなかった層、いままで当社にまったく縁のなかった学生さんが興味をもってくれているようになったことは実感しています。たとえば、これまでは採用でバッティングしなかった企業さんと競合するようになりましたから。
ITで削減した時間は、インターンシップへ
─マーケティング面について、オウンドメディアの情報をより採用ターゲットに届けるようにするために、なにか工夫はしていますか。
オウンドメディアの情報をあらゆるSNSを活用して候補者となる学生さんに届けたり、社員との接点を設けるようなイベントなどを開催しています。さらに学生さんとの相互理解を図るために、様々な切り口のインターンシップによって学生さんとのリアルな接触を強化していっています。
─意外ですね。サイバーエージェントさんのことだから、ITによるデジタルな接触方法に注力しているイメージがありました。
いいえ、かなり泥臭いことをやっていますよ(笑)。リアルな接触をなくしてしまうのは、「まだ早いかな」という感覚があります。だんだんITに代替されていくのだろうとは思いますが。学生さんの視点に立ったとき、「あなたなら、こういう活躍ができるよ」ということを、面と向かってリアルに伝えてもらったほうがうれしいでしょう。
だから、リアルなインターンシップは減らしていませんし、むしろ増えています(笑)。効率化できる部分はオウンドメディアに切り替え、できた時間をリアルのほうに回している感じです。
─では、「サイブラリー」の立ち上げには、どのくらいのリソースをさきましたか。
採用広報チームが担当しています。アウトソースはまったくなく、完全に内製化しています。人事スタッフのなかに撮影や動画編集、Webアップなどができるメンバーがいて、カメラをかついで社内を飛び回っています(笑)。
私たちのことをより正しく理解していただくことがメディア立ち上げの目的ですから、企業文化を理解している社員が制作したほうが、外注して制作するよりも目的に合致したものができるはず。会社のリアルを知っている人間がリアルを包み隠さず「これがサイバーエージェントです」と伝えていくという意味で、社員が制作したほうがいいと判断しました。
─コンテンツの企画の面での工夫を教えてください。
学生さんに届けたいので、専門用語を並べるのではなく、学生さんに理解してもらいやすい言葉づかい、説明方法、動画であれば話し方をするように気をつけています。画面上の工夫としては、電車のなかなど音声を出せない場所で見る人もいると思うので、字幕を入れています。
社員インタビューでは、入社1年目2年目の若い社員に、会社や仕事について語ってもらっています。入社間もない社員が全社視点で語ることができるのが、当社のリアルだからです。学生さんに近い年齢の人が、自分の仕事に誇りをもち、全社的視点から、全力で目の前の仕事に取り組んでいる姿を、リアルなナマの声で伝えることが重要と考えています。原稿は用意せず、「こういうことをしゃべってください」といった指示はしません。“リアル”にこだわっています。
高校生も含めて1対1の情報発信を
─今後のオウンドメディアのビジョンを聞かせてください。
さらに細分化した記事の発信をしていきたいと思っています。サイブラリーは「学生さんにちゃんとした情報を届ける」という目的でリリースしたものなので、内容を吟味しつつも、「まずコンテンツの数をしっかり確保する」ことに注力してきました。しかし今後は、「記事を出せばいい」というフェーズではなくなってくると思っています。学生さんの志向も、会社に求めるニーズも多様化しているので、それぞれにあった記事の発信内容にしていく必要があると考えています。
─ワンツーワンマーケティングみたいなイメージでしょうか。
そうです! 「同じような人に向けて同じような記事を打つ」という段階ではもうないと感じています。ニーズの異なる人たちに、それぞれ刺さるものをちゃんと届けていく。ワンツーワンができるのが、オウンドメディアの強みでもありますから。
それから、サイブラリーなどの採用コンテンツを見て、会社を深く理解したうえでファーストコンタクトしてくださる年齢層が、だんだん若くなっている印象をもっています。「就活生向け」というスタンスではなく「大学生全般に向けて」、あるいは極端な話、「高校生に向けて」話題を提供していく必要性が出てくるだろうと思っています。「サイバーエージェントっていい会社だな」というイメージを早期にもってもらえれば、それは大きな採用ブランドにつながるのではないでしょうか。